無銭飲食


さっき吉野家で、無銭飲食の人を見た。


店に入ったら警察の人がいて、「仕事の合間に牛丼でも食ってるのかな?」と思ったら、なにやら床にへたりこんでいる人に話しかけていた。


その初老の男性は酔っ払って寝てしまったらしく、警察の人が「すんませーん、起きてくださーい」と呼びかけても全く反応せず。そのまま床をズルズルと引っ張られて、店の外へと運び出されていった。その人のいた席には、日本酒の瓶が2つ。ボディチェックを終えて戻ってきた警察の人いわく、この人はホームレスで、お金はおろか身分証の1つも持っていないとのことだった。警察の人はその後、店のバイト君と「代金、どうしようね?」とやりとりしていた。あと、念のため救急車が呼ばれたらしいことも会話内容から判明した。


実は何年か前にも、同じ吉野家で食い逃げの瞬間を目撃したことがあるのだが、その時の人にやけにそっくりな気がするのは気のせいだろうか。


前に見たその人の食い逃げっぷりは実に華麗で、ただ牛丼を食べるばかりか、持ち帰りの牛丼も何パックかゲットしたうえで、店員が目を離しているうちにあわてず、騒がず、悠然と出口から歩いて去っていったのだった。僕は真正面でその一部始終を見ていたのだが、あまりの自然さに「ああ、あの人はきっと、持ち帰りの牛丼を受け取る時に代金を支払ったのだな」と思い込んでしまったくらいだ。事の次第に気付いたのは、店員が「あっ」という声とともに店を飛び出し、周囲を確認した後に「チッ」と舌打ちをしながら戻ってきた時だった。


しかも恐れ入るのは、その人が最初、日本酒まで頼もうとしていたことだ。その時はすでに24時を回っていたため、注文はできなかったのだが…………あまりのやりたい放題っぷりに、僕は素直に感心してしまった。どんだけ食い逃げ慣れしているのか、と。


そういう背景もあり、個人的には今回のも「警察の人が目を離している隙にムクリと起き上がり、華麗に遁走」なんてオチを期待していたのだが…………残念ながら、僕が帰るまでその人は店の外で寝たままだった。